不確実性が増す昨今、非日常的な体験から自己発見やリーダーシップ、フォロワーシップなどを学べるアドベンチャー(冒険)プログラムが注目を集めています。
「全人教育」を実践する玉川学園・玉川大学(東京都町田市)は、学校教育施設としては日本で初めて屋外にアドベンチャー教育施設を導入し、学生だけではなく企業向けにも先駆的なプログラムを提供してきました。
今回は、アドベンチャー教育の哲学・手法を取り入れた、玉川学園・玉川大学独自の体験学習プログラムTAP(Tamagawa Adventure Program)について、その特徴やチームビルディングの効果などをTAPセンター⻑の工藤 亘さんに聞きました。
人は「アドベンチャー」を通じて成長してきた
──TAPでは、「アドベンチャー」をキーワードにしたプログラムを提供されています。その考え方の特徴を教えてください。
そもそも人間は、子どもも大人も、さまざまな「アドベンチャー」を通して成長してきた、という考えが前提にあります。
成功するか分からない不確実なことに対して、自ら意思決定し、リスクを理解し、テイクしながらトライしていく。
私たちはよく、「トライ&エラー&ラーン」と言っているのですが、成功することもあれば失敗することもある。それらを振り返って学びながら成長していくことが、人として一生涯必要なことと考え、プログラムを提供しています。
──もともとアドベンチャー教育は、ドイツの教育哲学者クルト・ハーン氏が提唱し、発展してきたそうですね。
はい。もともとはヨーロッパやアメリカで発展してきました。
日本のカルチャーとして、協調・同調は得意だけれど自己主張が少ないなどもある中で、そのまま日本に直輸入してもフィットしません。そこで、全人教育を具現化するために、玉川学園・玉川大学の思想とかけあわせてカスタマイズしたものがTAPです。
現在、TAPセンターには指導員が5名所属しています。中には大学の教員もいて、それぞれの専門分野を活かし、理論と実践を往還・統合しながら運営しています。
失敗してもいい。トライを繰り返そう
──プログラムの大まかな流れを教えてください。
企業向けのプログラムは、半日や1日をかけて行うことが多いです。
まずはアイスブレーキングから始めます。大きな声を出したりスキンシップを図ったりしながら、心理的・物理的距離を近づけて、お互いを認め合えるような関係性の土台(C-zone・心理的安全性)をつくっていきます。
その後、課題をみんなで解決するようなプログラムへと発展させ、徐々に難易度を上げていくような流れを組んでいます。
後半では、場合によっては「チャレンジコース」という命綱を使うようなダイナミックなコースもあります。
そこでは例えば、自分の力だけでは前へ進めないとき、周囲にどう頼ったらよいのか、周囲の人はどんな声掛けをするとよいのかなどを考え、実践を通して学びます。
──プログラムを受けた企業・組織の中で印象的なシーンはありますか?
某クリエイティブ業界の大手企業の研修にTAPを活用いただいたときのことです。ビジネスパーソンとしての知識、経験を多く持つ方々の集まりでした。
活動の中で、30分の制限時間を設けてチームで課題を解決していくものがありました。
その組織のみなさんは、いわゆるPDCAのP(Plan:計画)に大部分の時間を割いていて、トライしたのがほぼ終了間際に1回だけだったんです。
結果、残念ながら成功しませんでした。計画を綿密に練り、あらゆるリスクを想定することも大切なのですが、小さなトライをして失敗したら修正し、また次のトライしていく思考も必要なのではないかなと感じました。
おそらく、ビジネスシーンでは「失敗しない」「エラーは許されない」という思考が働き、そのような考えが日常的になっていたのかもしれません。振り返りの場では、「もう少し試してみればよかった」とも話されていて、体験を通じて学習することができた場だったと思います。
「新たな自分に出会える」体験を
──TAPにはどんなプログラムがありますか?
TAPでは、企業向けに大きく2つのプログラムを展開しています。
1つは、管理職やリーダークラスの方を対象として、ビジネスや業務の場面で必要とされる「人と組織の関係に焦点を当てたリーダーシップ」を学ぶもの(クリエイティブ・リーダーシップ)です。
もう1つは、新人の方などまだ組織歴が浅い方にむけての研修(アドベンチャーセミナー)です。「個と集団の関わり方」を通して学んだ自己認識力や対人関係能力を核として、社会の中で実力を発揮できる人材を育成します。
その他、ニーズにあわせたカスタ厶メイドのプログラムも展開しています。
──参加者の方の満足度も高いと伺いました。体験された方からはどんな声があるのでしょうか。
「新たな自分に出会えた」「自己発見できた」「挑戦することの大切さを再発見することができた」、そして「何といっても楽しい!」という声を多くいただきます。
参加前は、“人と関わることやチャレンジすることが苦手なタイプ”だと思っていた方が、“自分でもできるんだ”と自信を持てたという話を聞きました。まさにこれは体験して分かったことですよね。
──最後に、企業内研修を考えている方に向けて、一言お願いします。
頭で理解していたつもりのことでも、実際に自分たちで体感することで新たな気づきがあり、行動変容につながっていきます。まさに、知識と行動のギャップを埋めるためにも有効です。TAPはそれが叶うプログラムです。
東京都内でアドベンチャー教育専用の施設があり専任スタッフがいるのは私たちの誇れる点です。
また私たちとしては、プログラムを体験して一度で終わりではなく、それを組織内で定着させていくための仕組みをつくることにも注力しています。ぜひ一度いらしてみてください。
(写真提供:TAPセンター)
▼お話を聞いた人
工藤 亘さん/玉川大学教育学部教授 玉川大学 TAPセンター⻑
教育実践学会常任理事。第32期川崎市⻘少年協議会副会⻑。日本キャンプ協会公認キャンプディレクター1級。専門は、アドベンチャー教育、コミュニケーション学、生徒指導。著書に「アドベンチャーと教育」(玉川大学出版部)、「生徒・進路指導の理論と方法」(玉川大学出版部)、「全人教育の歴史と展望」(玉川大学出版部)、「特別活動」(学文社)、「教育実践学」(大学教育出版)など。