
未FIX「移動しながら考える」がチームを動かす——東大カオスキャンプ、箱根合宿の舞台裏
【1日目】
12:00 集合・チェックイン
13:00 オリエンテーション
13:30 グループワーク(チーム編成・テーマ探索)
17:00 中間プレゼンテーション
18:00 夕食
20:00 グループワーク/自由交流(花火など)
【2日目】
08:00 朝食
10:00 オリエンテーション
12:00 昼食
13:30 外部講師による特別講義・ワークショップ
15:00 グループワーク(企画のブラッシュアップ)
18:00 夕食
20:00 グループワーク/自由交流
【3日目】
08:00 朝食
10:00 プレゼンテーション
12:00 退館・解散
※スケジュールは目安です
2026年8月中旬、東京大学をはじめとする学生たち約30名が、箱根に集まった。運営やメンターを含めれば、その数はおよそ50名。
東京大学発のクリエイティブ教育プログラム「東京大学カオスキャンプ」、その最初の山場となる合宿が2泊3日で行われたのだ。
舞台に選ばれたのは、貸切可能なリゾート施設『ライムリゾート箱根(神奈川県箱根町)』。日常のキャンパスを離れ、学生たちはなぜ箱根にこもったのか。現地を訪ね、その理由を探った。
東京大学カオスキャンプとは

「東大カオスキャンプ」は、専門領域も大学も学年も異なる学生が一つの場に集い、「一人ではできないこと、この場所でしかできないこと」を問いながら創作に挑む、東京大学発の越境型クリエイティブ教育プログラムだ。
掲げているのは、未来を創る知財(IP)・人材・ビジネスを生み出す、創造教育の場であること。学生たちとアカデミア、日本を代表するクリエイターや起業家たちが交わる「カオティックな半年間」を通じて、次代を担うスター人材とスターチームを世に送り出すことを目指している。

ディレクターを務めるのは、映画プロデューサー・監督・小説家の川村元気氏と、東京大学総長特任補佐 先端科学技術研究センター 副所長・教授の稲見昌彦氏。
東京大学大学院情報学環の教授らも講師としてプログラムを支え、各業界で代表作を持つ、いわば「レジェンド」と呼ばれるプロの編集者や映画監督たちがメンターとして並走する。
集まった学生は、およそ4倍の選考を勝ち抜いた28名。応募時に「3分間の作品」を課され、クリエイターかプロデューサーとしての適性で選ばれた、粒ぞろいの面々だ。彼らはこのキャンプを経て、「未来をデザインする人材」へと進化することが期待されている。
なぜ、箱根で2泊3日の合宿を行ったのか

2期目となる今回のカオスキャンプが本格的に動き出したのは、8月上旬。そこから約10日間、学生たちは集中的にプログラムに取り組んだ。箱根での合宿は、その最初の大きな山場だ。
「大学内でキックオフや講義を行って、4日目にあたる日から場所を移動して合宿がスタートしました。最初の10日間は、集中的に取り組めるよう、あえて連続で動くスケジュールにしているんです」(カオスキャンプ事務局担当者)
合宿の狙いは明確だ。学生たちがカオスキャンプを通じて自主的に「誰と、何をやるか」を話し合い、チームと企画の方向性を固めること。
そしてここで立ち上がった構想は、月1回の進捗確認を経て、来年3月の報告会で披露される。つまりこの2泊3日は、半年以上続くプロジェクトの出発点だった。

昨年同時期に行われた東京大学カオスキャンプの第1期目は、東京大学が持つ山中湖の施設で行われた。ただ同施設は日程の融通が利きづらく、2期目は、外部施設で行うことになったという。
「施設を探す際の条件は主に3つ。都心から1時間強でアクセスできること、自然が近いこと、そして貸切にできることでした」(東京大学カオスキャンプ 事務局担当者)
それらを満たす候補として挙がったのが、複数の教員が過去に研究会などで利用したことがあった、ライムリゾート箱根だった。
決め手を聞くと、答えはシンプルだった。
「学生たちが自由に移動して、好きな場所を選んで話し合うことができる。それが今回のチームビルディングにとても向いていると思ったんです」(東京大学カオスキャンプ 事務局担当者)
閉ざされた空間に一日こもるのではなく、話す相手も場所も自分たちで選べること。それが、混ざり合いを目的とする合宿の狙いと重なった。
「移動しながら考える」空間

中日にあたる合宿2日目、プログラムの共同統括者でもある東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授に話を聞いた。
「クリエイティビティを刺激するために大事なのは、“動き”があることなんです」
そう語る稲見教授は、創造性を後押しする施設の条件について、中国の古い言葉を引いて説明してくれた。
「三上(さんじょう)」——馬上(ばじょう)、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)。馬に乗っているとき、布団の中、そしてお手洗いや風呂にいるとき……人は移動しているときやリラックスしているときにこそ、良いアイデアを得る、という教えだ。
「ここ(ライムリゾート箱根)には温泉があって、ゆったりと寛げる場所もあって、自然の中の開放感あふれる敷地内を自由に移動できる。庭に出たり、中に入ったり、階段を上がったり。場所を移動することで、新しいアイデアが出てきやすい環境だと感じます」(稲見教授)

そう話す稲見教授は、施設の規模と今回の参加者約50名という人数の相性の良さにも触れた。
「コンパクトすぎず大きすぎず、ちょうどいい。このプログラムのためにできた施設なんじゃないか、と思うくらいです」(稲見教授)
施設内は、プレゼンテーションができるエリアや、複数のワークショップを並行して行えるエリアなど、用途に応じて使い分けられるつくりになっている。
「いろんなモードが作れるのがいいですね。各エリアがゆるやかにつながっていて、全体が一つの空間になっているのも、一体感の醸成に欠かせません」(稲見教授)
「余白」まで設計する滞在

今回の合宿には、もうひとつ工夫があった。日程だ。前回開催時は1泊2日だったが、今回は2泊3日に延長。
「移動だけでバタバタしてしまい、学生同士がゆっくりコミュニケーションを取る時間が足りなかった」という反省から、スケジュールにあえて“余白”を組み込み、深く対話できるようタイムスケジュールをブラッシュアップしたという。
その効果は、合宿の空気にも表れた。昼は充実したインプットやワークショップに取り組み、夜は和気あいあいと賑やかに過ごす学生たちの姿が見られたのだ。

「1日目はあいにくの天候で予定していた外でのバーベキューは見送られましたが、花火を楽しそうにやっていました」(稲見教授)
食事の充実ぶりも、学生たちの満足度は高かったという。ワインの品揃えを含めこだわりの料理に、会話も弾んだ。

また中庭は、天気が良ければリラックスして議論するのに絶好の場所だ。
「“こもる”機能に特化した研修施設もありますが、ライムリゾート箱根にはリゾートとしての開放感や快適さもあるので、学生はもちろん、著名なメンターの方々も自信を持ってお呼びできます。プロジェクトにとってとてもいいスタートが切れました」(東京大学カオスキャンプ 事務局担当者)
創造性は、個人の才能だけで生まれるものではない。移動しながら考える動線、緊張と余白を行き来できる時間、安心して打ち解けられる環境——「どこで集まるか」という選択そのものが、チームとアイデアを育てる条件になり得る。箱根での2泊3日は、そのことを教えてくれた。